大人の事情で圧迫される少年の心情を思い胸がしめつけられる。
少年が親友だけに持つ特別な親しみの貴重さや、心からの(おそらくほんの小さな)楽しみをどれほど大人が奪っているか。それによって子どもたちがどう感じているかを知るモデルになる。
自分にも色々とあったことを思い出しながら、いまはずいぶん隔たりのあるところにいると気づくし、小さい時の自分の眼差しを想いながら、温かい気持ちになれた。
表現にも美しさを随所に感じた。ドイツの田舎、自然、春夏秋冬を通しての季節感の描写は、例によって日本語訳にしばしば無理があるとはいえ、感覚的には十分に伝わってくるものがあった。特に、重要なシーンに秋の描写が多くて、今の時期にもマッチして共感度が高まる。
ちなみに本書を知ったのは、村上春樹の『ノルウェイの森』。作中、主人公が本屋の友人宅に泊まった夜に、主人公が眠れずに選んだのが『車輪の下』だった(はず)。早朝、代金と書き置きを残してシャッターを上げてお店を出て行くシーンが印象的だった。
それを機にずいぶん以前に買った本で、何度も読み進められず放置していたけれど、読書に慣れたからか、今回はいちにちふつかで、夢中で読めてしまったのが不思議。
美しくもかなしい映画を観終わった後のような温かい気持ち。